女たちの大英帝国/井野瀬久美恵
19世紀の、まだイギリスが大英帝国だった頃。世界各地を旅して回る「レディートラベラー」という女性達がいたらしい。日本で有名なイザベラ・バードも、そういった女性の一人…だったことを、この本のあとがきを読んで知った。
そして、それらの女性達は、主に地球の未開地に一人で出かけることを好み、またその姿も探検服を着た仰々しいものではなく、長いスカートをまとう、まるでロンドンの繁華街を散歩しているかのような、正当なイギリス人女性の姿で冒険することを好んだ。
何故当時のイギリス人女性がそのような旅にあこがれて、またしばしば実行したのか?この本でも色々考察されている。当時のイギリスは、人口比率で女性の割合が多く、女性達は自分が一生男性と結婚することができないと恐怖している社会情勢が、このような強くて一人で行動する女性にあこがれるブームを作ったのか?あるいは、イギリス帝国としての社会的責任感からか、色々な理由は推測されているが、どれも正しい考察だとは思えないし、またこの著者も、それらが理由ではないと思っているようだ。強いていえば「ブーム」だったとしかいえないのかな?とも思う。
バードのような女性が、当時の未開地域だった日本の東北を、スカート姿で歩いていたのにも驚いたものだが、他にも多くのイギリス人女性が、日本どころか、西アフリカの奥地をスカート姿で単独で歩いていたというのにも驚く。
「日本奥地紀行」だけを読むと、そのバードの異常とも思える「トラベル」への執着が理解できないのだが、本書を読むと、当時、同じ志を持って世界を歩いていた英国人女性は数多くいたというのが判る。ただ、それでバードの動機はある程度理解できても、何故多くの女性が単独で…という疑問は残る訳だが。
ちなみに、世の女性解放運動家の方達は、こういった女性達の姿に「解放された女性像」を重ねようとするらしいが、こういう点において彼女たちの思想は極めて保守的な場合が多く、中には「女性は選挙権を持つべきでない」などという発言をしていたレディートラベラーも多かったという。
結局、19世紀当時のイギリス社会というのは、私達現代人とは全くベクトルの違う価値観も数多く存在していた…という風に考えるしかないのだろうか?
本書は講談社現代新書から発売されていたのだが、現在では品切れ状態になっている。というか、知らない間にこのクリーム色の表紙の本見なくなったと思ったら、別なデザインでリニューアルされているみたいだね。このリニューアルで、絶版、もしくは品切れ状態になってしまった本も数多くあるようだ。