舟景の民俗/出口晶子
昔、蒸気機関車の事を「陸蒸気」と言った。そして今では逆に、河川などを運行する短距離船舶を「水上バス」などと言ったりする。この言葉の部分で、私たちの意識が水辺から陸へと移り変わっている様を感じる事ができる…みたいな事が冒頭で書いてあり、なるほどなと思った。
本書は、琵琶湖の水辺に焦点を当てて、かつて水辺で生活していた人達の移り変わりを生活の移り変わりという視点からまとめている。
読後改めて思うと、今の琵琶湖で「水上」がほとんど利用されなくなったのは、いくら何でも不自然な気がする。これは琵琶湖だけではなく、例えば関東だと霞ヶ浦などもそうだろう。霞ヶ浦を例にとれば、土浦から潮来や鹿島の辺りまで定期船が運航していたら、今だって結構便利なのではないかと思うが、気がつくとそんな事を考えもしなくなった事に、私たち自身の水辺との意識の剥離を感じる事ができる。私たちはいつから水辺を嫌い始めたのであろうか。本書を読みながらそんな事を感じた。
ちなみに琵琶湖で使われる「丸子船」という種類の舟だが「日本の内海でこれほど大きな舟を運用していた地域はない」というのは誤りで、例えば関東地方では「高瀬船(高瀬舟…ではない)」という、全長が30m前後ある舟が数多く運行されていた。
そして琵琶湖同様この利根川水系でも、定期的な大型船の運用は消滅してしまった。
舟景の民俗―水辺のモノグラフィ・琵琶湖/出口晶子