動輪の大きさ
近年になって、乗り物の車輪(動輪)はどんどん小さくなっている。
たとえば、自動車の動輪は自動車が発明されて以降、ほぼ一貫して小さくなってきた。昔のエンジンは回転数と馬力が低く、速度をトランスミッションではなく動輪の大きさで稼ぐしかなかったからだ。もっとも、近頃はドレスアップ目的で乗用車に大き目のタイヤを履くことが一部で流行っているが、大きいといっても微々たるモノである。
鉄道も同様、初期の蒸気機関車は動輪がさほど大きくなかったが、蒸気機関車の最盛期には動輪が大型化し中には2mを超えるモノもあった。これは大きな車輪の方がスピードを出しやすいという理由からだったが、逆に言えば蒸気機関の低いシリンダー速度を大きな動輪で補っていた…という言い方もできる。
そういえば、伴走車なしの自転車世界最速レコードは、アレックス・モールトンという小径の車輪を持つ自転車が出した。これも変速機の進化により動輪で速度を稼がなくて良くなったからか…というより、人の足で出せる最大トルクの制限や空気抵抗などの要因によるモノか。自動車や鉄道と同じロジックで小さな動輪がいいという判断なのかよくわからない。
船についても、当初の蒸気船は外輪船といわれる、横に大きな水車みたいな動輪を持つタイプだったが、後にスクリュー方式に変わっている。これも方式が変わってはいるが、動輪の小型化ともいえる。
小さな動輪のメリットとデメリットは、回転モーメントが低いこと。つまり加速や減速はしやすいが、その速度を維持しにくいという点。逆に大きな動輪を使えば、加速はしにくいが、速度に乗ってしまえば、その動輪自体の遠心力が現状維持の方向に働くので、エンジンの出力は小さくできる。一定の速度で長時間走行する場合はそちらの方が無駄がない。
エンジン出力に余裕があり、加速と減速を絶えず繰り返す走行パターンを行う場合は、トランスミッションの抵抗を考えても小さな動輪の方が効率がよくなる。また、小さな動輪は動輪そのものの重量も軽く、剛性も高くなるので、それもメリット。
効率以外の問題としては、小さな動輪よりも大きな動輪の方が障害物に強い。ただ、こちらの問題は路面の整備が進んでいることと、鉄道の場合はレールの上なので、粘着力の問題は別にすると、あまり関係ない要因か。
また、乗り物として考えれば、動輪を含めた車輪は小さければ小さいほど、ボディの設計自由度が高まり、客室や貨物室を広くできる。つまり効率が良くなる。現代の乗り物の動輪が小型化している一番の要因はここだろう。それと同時に、技術の進歩で速度をエンジンの回転数やトランスミッションで補うことが可能にもなった。
この先、乗り物の動輪はどのような進歩を遂げるのだろうか。大型化するのか小型化するのか、あるいは動輪そのものが消滅するのか。
飛行機については、技術の進歩が動輪(プロペラ)を消滅させたといえなくもないかな。