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▼2010年02月07日

黒船前夜/渡辺京二

 副題は「ロシア・アイヌ・日本の三国志」。著者は「逝きし世の面影」で有名な渡辺京二。後書きには「逝きし世の…」の続編となる「日本近代素描」シリーズの2巻目にしようとしたが、思いとどまった…とある。

 本書で語られる時代は、ベニョフスキーの書簡事件から、ゴロウニン事件まで。その間に起きる、日本とアイヌ、そしてロシア三国の動きや思惑を明らかにしてゆく。

 旧世代の幕末史でよく語られる「黒船のショック」と、始めて見る異人に慌てふためく日本人…というステレオタイプのイメージは、最近になりだんだんと否定されつつあるが、本書においても、見知らぬ外国人に対して冷静な判断で対応する徳川時代の日本人が活き活きと描かれており、また、同じく旧世代のアイヌ史でよく語られてきた、内地(本州に住む日本人)の人間に一方的に搾取されるアイヌ人という、またステレオタイプなイメージについても警鐘を与えているように見える。少なくとも、徳川時代のアイヌ人は、幕府から一方的に支配されるだけの存在ではなかったという事のようだ。

 このゴロウニン事件の後、日本とロシアの通商交渉は一旦休止し、もう少し時代が下った時に、アメリカからはペリー、ロシアからはプチャーチンが、ほぼ同時に日本を目指し、タッチの差でペリーの恫喝外交が実を結ぶという結果になった。その時どさくさ紛れに通商条約を結んだ列強の中で、たった一つ、いわゆる「不平等条約」を押しつけなかったのがロシアであったらしい。

 本書に登場する日本人とロシア人達の姿を見ると、もし江戸幕府の開国がロシアからスタートしていたら、その後の幕末史と昭和史は、もっと穏やかな時代だったかも知れない…などという幻想を抱きたくなってしまう。
 本書を始め、当時の時代について書かれた書物を何冊か読むに当たり、日本人とロシア人は、いつの日かイデオロギー的対立を乗り越え、心の底から笑い会える仲になる日が来るのではないかと思っちゃうね。

黒船前夜/渡辺京二
日本俘虜実記(上)/ゴロウニン

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