胸いっぱいの愛を/広谷鏡子
では話にならないので(笑)、もう少し真面目に解説しますと、出会いは丸善のオアゾ店。注目書の中に並んでいて「おぉ…正当派青春小説やね…」と目に留めたら、帯にある池上彰さんオススメ!というコメントに何となく惹かれてしまい、つい手に取ってしまって、そのまま買ってしまったという訳。
ちなみに帯を読むと誤解してしまいそうですが、主人公は「ほんだきん」という名前ではありません。
内容としては、超青春リア充爆発しろ!的な小説ではありますが、種明かしをすると、この小説の舞台は今から約30年前のお話となります。当時高校生活を送っていた女の子が、今になって過去を語るというストーリ。
ただ、過去と未来を結びつけるトリックなどは何もなく、本当に今でいう私と同じ世代の人間が、高校生活の甘酸っぱくてキュンとくる日常を思い出しながら語っているという小説になります。えぇ…私には甘酸っぱい思い出もキュンとくる思い出も何もなかったですけどね。
表紙のイラストでは、細身の快活そうな女の子に見えますが、じつはお尻が大きい事を気にしていたりと、美少女が美少女的描写になっていない所が、年を重ねた女性が一人称で過去を語る意味がある事なのかもしれません。実際…高校の同級生とかじゃ、誰にでも判りやすい「美少女」なんていなかったもんだよね。
池上彰オススメはともかくとして、高校野球とロックと瀬戸内海というキーワード、何処かに反応した人にとっては、読んでみる価値がある小説ではないかと。読後感はサッパリとしていて、いい感じです。
結果として主人公の高山桂子がリア充的人生を送っていなさそうな感じではあるのですが、やはり、若い頃に経験した宝石のような体験は、それだけで一生前向きに生き続けられるだけのパワーを秘めているものなのかもしれません。