資本主義は海洋アジアから/川勝平太
いわゆる「学校で習った世界史」を否定する本。というか、学校の歴史では、積み重ねの事実の中に「史観」という概念が欠けているのが問題なのかもしれないが、そこまでを学校教育に求めるのも酷かもしれない。
本書では、タイトルの通り「資本主義社会は、封建制や帝国主義としての流れで始まったのではなく、貿易という独自の価値観がベースとなって始まった」という説が唱えられている。
つまり、人類は昔から歴史で言われていたように、原始共産社会から、古代、中世、近世、近代、といった順で進化してきたのではなく、その社会構成や価値観は、地域によってバラバラに進行してきたよ、という事。
そういえば、高校生の頃だったか歴史の先生と話していて、私が「日本にはいわゆる西洋にある『中世』って時代ないですよね」と質問して、うやむやにされたことがあるが、日本に歴史上の分類としての中世がある云々は別にしても、それを社会構造ではなく、西洋社会を基準とした西暦を用いて世界を時間軸まで含めて分けてしまうのには無理があったと思う。
日本が近代化した直前には、鎖国を行っていた徳川時代が挟まっているので、どうも日本は「海洋立国」であったという概念が、特に歴史では薄いような気がしている。徳川時代の日本人は、東南アジアにも積極的に出かけていって、様々な場所で「日本人村」を作り自由に活動していた。
また、徳川時代であっても、日本列島の海の周りは、千石船が縦横無尽に走り回り、それらの船が朝鮮などに出かけていった事例も割とあったようである。
司馬遼太郎が言う所の「明治維新は軌跡」ではなく、やはり日本人の気質として、近代社会に適応しやすい状況が揃っていたのだろう。
本書では、日本を、同じユーラシア大陸の端であるイギリスと比較しているが、その論調には少し無理があるなと思う所はあっても、気軽に読めるし、今の歴史学の動向を知っておくのには、コンパクトにまとまっていて宜しいのではないかと。