スズキさんの生活と意見/鈴木正文
ということで、前のエントリで書いた「スズキさんの生活と意見」という本について書いてみる。
彼の文章は昔から好きで、特に好きな点は、自分を「左翼」と称しながら、社会の中で常に反抗…じゃないな、自分のスタイルを貫いて生きているのが文章から垣間見える所。
このブログやTwitterなどで日々「クソ左翼」とか罵っている私だが、私の思想の本質は「アナーキズム」であり、どちらかというと左翼的思考に近い。これは「左と右は一回りして似ている」などという、わかってるんだかわかってないんだかのような考えではなく、やはり本質的に、右翼と左翼は違うと思っている。
しかし、今世の中に蔓延っている「左翼的思想」とは、単なる中共や売国奴達…少し古い言い方をすれば、日本の体制をひっくり返して赤化する事を夢見ていたアホ共の末裔でしかない。スターリンはどれだけ人を殺したか、中国の文革でどれだけの人がこの世から消えたのか、今チベットで何が起きているのか…これらを総括できない日本の自称「左翼」思想は、全く評価に値しない。あなたが無差別殺人をこよなく愛するのであればまた別だが。
でも鈴木氏の思想は多分違う。この本に書いてある細かな部分では、私と考えを異にすることがあるが、それでも彼の根本にある思想は「人は自由であるべき」とでも言うのであろうか。その考え方はとても賛同できるし尊敬できるのだ。
このエッセイは、今世紀から2010年位の間に書かれた文章なので、それなりにちょっと前の世相を反映している。特にその中間に起きていた「リーマンショックによる世界的大恐慌」について、要約すれば、こんな時代にわざわざ倹約する必要もないし、好きな人は贅沢をすればいいし、今まで倹約していた人は倹約を続ければ良い、といった文章を何度も書いている。
確かに改めて思うとあの時代の空気感は異常だった。みんな、今までやってきた仕事が、ある日理由もなく消えたような喪失感を感じていた。その要因がアメリカでのリーマンブラザーズ崩壊という、バブル崩壊やIT危機のようなわかりやすい理由がなかったから、私達日本人は、何故今日から世界が不況なのか、よくわからないまま、収入を下げ、今までの仕事を失い、今の自分を理解する前に、ハローワークに殺到したりしたのだった。
その頃の自分は何をやっていたのかと改めて思い出せば、確かにリーマンショック以降の不穏な空気がイヤになって、衝動的に仕事を辞めてしまった私は、世の中の不況ムードに反抗するかのように、赤いオープンカーで北海道へ旅行に行ったり、ロードレーサーを購入して、毎日のように100km〜200km走っていたり、上質な服を買ったり、毎晩ワインを飲んだくれていたりした。
端から見れば、職を失い、ハローワークで少ない求人票に群がる惨めな中年に見えたかも知れないが、思えば、仕事はそのうち見つかるだろうと、そんなに心配してもいなかったのかもしれない。どちらかというと、毎日遊んでいるのもバツが悪いので、仕方なく週に2〜3回のペースで就職面接を入れ、都内に出かけては、面接で落とされるというのを繰り返していただけのような気もする。
ま、私が今こうやって、それなりの規模の会社(但し薄給w)で働いていられるのも、薄氷を踏むような幸運が連なった上での話でしかないのかも知れない。あの頃の自分は精神が崩壊しそうだったが、でも、少なくとも仕事がないことで、私は自分のスタイルを変えなかった。自分のしてきた仕事の種類は変えなかったし、今を食いつなぐためだけの仕事もしなかった。自分で言うのもナンだが「左翼」や「反体制派」を名乗るくらいなら、それくらいの気概はほしいものだと思う。
生きる事は辛いことだ、でも、その中でも、自分がどう生きてゆきたいのか…それを自問するためのヒントが、この本には書いてあるような気がする。
大人になって、人生に迷う人には、是非読んでほしい本。