古代日本の超技術/志村史夫
かつての日本人が持っていた失われた技術について、ザッと俯瞰した本。
技術についての本ではありますが、内容的には、あまりむつかしいことは書いていないので、サッと読むことができます。
五重塔の心柱から、古来木造加工技術、昔の瓦の脅威、有名どころでは日本刀や大仏建立について、また、縄文時代の三内丸山遺跡など…。
私的に「オッ!」と思ったのは、昔の瓦についての話と、釘の話かな。
昔の瓦は湿気をよく吸い、そして外に逃がす働きがあり、現在の製法で作られた瓦を、そのまま木造建築に使ってしまうと、瓦の裏が結露してしまい、木造建築が早くダメになってしまうらしいです。
それと、奈良の法隆寺で使われている釘は、1,000年以上の歳月が流れていても、サビもせずそのままの強度を保っているとのこと(もっとも、古代木造建設では釘は応力を受けない作りではありますが)。その秘密は玉鋼…たたらで作られた鉄にあるのではないかとのことです。
もちろん、古代の技術が今の工業技術よりも優れていた訳ではなく、それらの技術は現代において、経済性・生産性の観点から不要になった技術だというのがほとんどです。
にしても、まともな計測器や分析機がなかった時代、1,000年保つ木造建築や塔、そしてそれらを支える釘を作ったことは、本当に脅威ですね。
ちなみにこういう話になると「例えば五重塔さ〜地震に強くて残ってるんじゃなくて、残ってるのがたまたま地震に強かっただけでしょ〜」とか言う人がいますが、記録を調べても、火災での焼失や人為的破壊行為で失われた例は何件もありますが、震災でそれらの塔が倒壊した記録は、不確定な1件を除き、日本史上ではないそうです。
私は、こういう「古代の技術」について、日本人だけが得に優れていたというよりも、日本人がそれらの技術の多くを、現代にまで脈々と受け継いでいることが素晴らしいんだろうなと思いました。
ちなみにお隣中国でも、西暦1,630年頃に「天工開物」という、当時の様々な工業技術が記された本があったらしいのですが、その存在はすぐに忘れられたようで、むしろその本が日本に伝わり、戦国から江戸時代を経て、明治の世の中になっても日本で伝えられていたのが、中国(当時は中華民国)の留学生が持ち帰って中国で広まったらしいです。
現在では「職人軽視」と言われる事の多い日本社会ですが、といいつつも、それらの技術についての伝統は、世界の中でもきちんと伝え続けている社会構造なんだろうなぁ…と思いました。
だって、そうじゃなければ、最新建築のスカイツリーに、世界最古の木造建築である法隆寺五重塔にも使われている“心柱”の技術を採用しよう!とか、考えないんじゃないかと思います。