太平洋の試練/イアン・トール
少し前に読んだ本なのですが、艦コレ始めた記念で今更紹介。副題には「日本が戦争に勝っていた180日間」とあります。
先の太平洋戦争について描かれた本で、個人的には、戦後日本人が書き起こした本は、あまり内容について信用できない気がしています。
何故から当時の軍部の情報分析能力について問題視することが多い割には、それらの本の著者達も、「硬直していた組織」とか「大艦巨砲主義から抜け出せなかった」とか、はたまた「烈風があと1年早く完成していたら(藁)」など、まともな客観的分析を行っているとは思えないからです。
ちなみに、組織については当時の軍の人事を調べると、日本軍だけが年功序列型の硬直した組織ではありませんでしたし(むしろヨーロッパの方がヒドイ?)、世界で最初に戦艦建造を止めた列強は日本だったりします。
そのように、負けた側ばかりの資料や証言を並べ立て、失敗の本質を探ろうとしたり、反省会を行っても、無意味だと思うのです。
何故なら、太平洋戦争当時のアメリカ人は、本気で日本に負けるんじゃないのか?と思って、日本を真剣に恐れていたからです。
この本は、日本人としてなかなか冷静になりきれない、太平洋戦争という事象のドキュメントを、アメリカ人らしいクールでドライな視点でまとめています。
正規空母の集中運用という破天荒な戦術による戦果の恐ろしさ、日本兵による正確で冷静で秩序ある行動がもたらす、戦争序盤における破竹の進撃など、序盤のアメリカ軍とアメリカ国民は、日本軍の恐怖に支配されていました。
しかし、日本における膨大な情報を分析したり、特に決定的なのが、日本人の軍組織、用兵術を真剣に研究し学んだことにより、アメリカ人は少しずつ自信を取り戻してゆきます。
当時の日本軍や、今の日本人に決定的に足りない部分は、そういった事実を冷静に分析し、相手の行動や戦術を客観的に検証し、行動に移すということではないかと私は思います。内輪同士で自己反省文ばかり書いていても、状況は改善しませんし、未来の教訓にはなり得ません。
他、本書の内容としては、空母戦のすさまじい描写が印象に残りました。飛行甲板に爆弾が命中し、後半に穴が開き爆弾が炸裂し、火災が発生する中、船体は火による高温で触れなくなるくらいに熱くなり、飛行甲板とキャットウォーク上には、多数の死体が散乱するなど、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図です。私が知らないだけかもですが、被弾した空母における地獄の船内状況を、ここまでリアルに書き起こしている本は、少し珍しいかも。
ちなみに当時の空母戦とは実質消耗戦でもあり、1回の出撃で戦果を出すには、確率として搭載飛行部隊の攻撃隊1個を失います。これは日本軍も米軍もほぼ同じです。両軍におけるその拮抗した戦力バランスが崩れたのが、ミッドウェイ海戦で、日本軍は、正規空母4隻という損耗もさることながら、同時に4隻×2〜3個の搭載航空部隊を失いました。
ボロ負けした日本軍ですが、次の南太平洋海戦では辛うじて勝利し、アメリカ軍の稼働空母を0にする大戦果を上げますが、多数の優秀な乗務員、航空兵を失っているため、日本軍の反撃はここまで。後はジリジリと負け続けてゆきます。
ミッドウェイでの敗戦がなければ、ガダルカナルでの無駄な消耗戦を行わなければ、手持ちの航空隊をあと数回運用するチャンスがあった訳で、よく言われるように、日本の敗戦を1年位は遅らせることが出来たかもしれませんね。
日本の戦史では突出して資料の多い太平洋戦争ですが、アメリカ人がアメリカ人の視点でまとめた本というのは、そんなに多くないです。
そういう意味で、本書は、あの戦争をアメリカ人がどう捉えていたのかがリアルに記されている貴重な資料であり、また、それに繫がる戦後、何故アメリカは日本を全力で支援し復旧させたのかも理解できる気がします。
当時のアメリカ人は、本当に日本人が怖かったのです。