国家はなぜ衰退するのか/ダロン・アセモグル
私達が所属している「国家」には、何故強弱があるのでしょうか。何故貧富の差があるのでしょうか。言っちゃなんだけど、皆さん何となく想像はついているんじゃないかと思うのですが、概ねそんな感じの分析がなされています。
別にネタバレしても関係ないと思いますので、敢えて書きますけど、この本が言うところの国家の繁栄、そして衰退は、生み出された利益が国民へ適切に分配されるかどうか…によって決まるといいます。つまり、人種の差、地政学の差は、決定的なモノではないらしいです。
冷静に考えてみると、確かに国家の栄枯盛衰とは、そんなものかもしれません。古くはローマ帝国から、大航海時代のヨーロッパ、その後に起きる産業革命と植民地主義、更に日本の急速な近代化。それぞれの時代で富を独占した国は、平等な法律により、膨大な利益を国民へと正しく還元することで、国体を強化してきました。
と、こういう話をすると「大航海時代のヨーロッパの何が平等なの?」とか「日本には士農工商という歴とした身分制度がありましたけど?」などと、旧態依然とした階級闘争史観を持った人たちが反論してくるかもしれませんが、これらの国は歴史的尺度で見ると、概ね平等な社会でした。
ホントの独裁者ってのはマジすごいですからね。それこそ、アフリカや共産主義国家の独裁体制を勉強した方がいい。また彼等は、自国民が商業で稼いだ金を意味もなく没収とか、裁判ナシでの国民処刑とか、あまつさえ気に入らない人間は奴隷として海外に売り飛ばすとか、やりたい放題してました。そして、そういう国は当然衰退しますよ!という…ある種当たり前な事例を、本書では丁寧に解説してあります。
個々の事例については、ちょっと怪しい部分もそれなりに見受けられるのですが、私も概ねこの著者の意見には賛成する気持ちで読み進められました。
所々、アメリカ的理想自由主義の色が濃すぎな部分もありますが、個人の成果が適切に個人へ還元され、その一部が共同体に還元されること…そういう体制じゃないと、確かに常識として国と社会が繁栄するはずもありません。
また、現在のアフリカが何故いつまでも貧困のままなのか。その理由もよくわかる気がします。国民が国家を信頼しない国に繁栄などある筈もありません。
上記は記憶で書いているので細かいところで間違いがあるかもしれませんが、これは「エリア88」というマンガの中で、サキ・ヴァシュタールがアスランの民主化について発言したセリフです。本書を読んでいて、ふと上記のセリフを思い出しました。
社会や国家が信頼出来ない民族は、他人も信用出来ないため、何よりも血縁関係を大事にします。つまり、そのような国民が大勢いる国家は、形だけ近代化しても、自力で国家としての繁栄は成し遂げられない集団だということです。
多くの国民が、国家という概念を理解せず、しかし国際社会で国家として存在しなければならないアフリカ諸国(+アジアのあの国)に、真の意味での繁栄が訪れる日は、まだまだ先なのかなとも思いました。
そうそう…写真にもありますが、こちらの本は上下巻ともKindle版を買いました。こういう重い本がKindle化されるのは本当に便利で嬉しいです。