MTBはなぜ廃れたか
「MTBはなぜ廃れたか。」難波賢二のタマルパ山通信 Season2
何度かこのブログでも書いているが、MTBに乗り、シングルトラックの山道を下り降りる感覚は、私が今まで生きてきた中で、ダントツで面白く、興奮し、高密度な体験だった。
大怪我して一時MTBトライアルからは遠ざかったが、今でも仲間と環境があれば、是非やってみたいスポーツだと思っている。
でもMTBは廃れてしまった。その理由を上記のブログでは「MTBは金がかかる」のが主な理由と分析しているようだ。
確かにMTBは金がかかる。自宅から自走できるロードと違い、MTBはフィールドまで出かける際、基本、車に積載する必要があるし、主に舗装路を走るロードと違って、荒れた山道を走るMTBは、想像以上のペースでぶっ壊れる。
1日でパンク2〜3回は当たり前、その他スポーク折れたとか、タイヤが千切れたとか、ワイヤー切れたとか、ブレーキシューが飛んでったとか、カンチレバーが根元から折れたとか、気が付いたらリアディレーラーが根元から千切れてなくなってたとか、登りで踏み込んだらBB折ったとか、常識ではちょっと考えられない場所も容赦なくぶっ壊れる。
私の場合は、乗車中にフレームが折れたとか、ホイールがぶっ飛んだというような、命に関わるトラブルがなかっただけ運がよかったかもしれない。
他、マシンもそうだが人間もぶっ壊れる。擦り傷切り傷程度は当たり前だし、大怪我に繫がるケースも多い。私の場合も骨折で3ヶ月ほど会社を休んだ事がある。
幸い私が骨折した場所は専用コース内だったので、その場で応急処置をして、ゴンドラがある場所までコースを登り返して麓の病院に行ったのだが、そこにいた女医さんに笑いながら「こりゃ全身麻酔だね、大病院じゃないと直らないから紹介書かいたげる」みたいにあしらわれたモノだ。そのダウンヒルコース近くのお医者さん、話を聞くと、骨折程度だと、それこそ患者は毎日何人も来るとのことで、その程度の怪我、すっかり慣れっこになっていたよう。
つことで、確かにMTB趣味は、金がかかるし、肉体への負担(犠牲)も大きい。
ちなみに私は、その怪我をしたときに会社を3ヶ月程完全休業したせいで、大幅に収入もダウンした。怪我による治療との事で、基本給だけは支給してくれたのがありがたかったが、今時の会社ならその間収入が完全にゼロになってもおかしくない。
確かに、MTBは一般サラリーマンが趣味でやるにしては、それなりに様々なリスクを伴うスポーツである事は間違いないと思う。
それでも、例えば雪山登山が毎年あれだけ死者を出しているのに廃れないし、私的には相当危険なスポーツだと認識してる沢登りだって、ブームにこそならなくても、それなりに一定ファンはいる。
これらの危険なエクストリームスポーツが廃れずに、何故MTBが廃れたのかというと、ズバリ、私が思うに、今の日本ではMTBで楽しめるフィールドが無くなったからではないかと考えている。
私がMTBどっぷりやっていた頃、一番走り回ったのは高尾山系の山だった。高尾山メインルートこそ踏み込まなかったが、景信山や陣馬山など、あの一帯の登山道はほぼ走ったのではないか、という位、何度も出かけた。
高尾山系のコースは、都心からも近く、雪も積もらないので通年走れる上に、道も適度に踏み固められて、MTBにとって、理想的なシングルトラック。
もちろん、歩いて登っている登山者もいたが、人がいればMTBから降りて道を譲っていたし、また登山者を追い越すときは、挨拶をすればたいてい快く道を空けてくれた。その時代のMTBは登山者にとって敵ではなく、むしろ「自転車で登るなんてすごいねぇ〜」とか「たいへんね〜」など、好意的に接してくれたものだ。
その時代は富士山にも自転車を担いで登ったし、戸隠にある飯縄山にも、ルート上ほとんど乗車できなかったけど担いで登ったりした。そこでも登山者達はMTBに対して実に好意的な視線だったし、若い女の子達から「カッコいい!すごい!」とか、マジで言われたりした。
あの当時は、それだけ、登山客もMTBに寛容だったし、また、MTBに乗る人もマナーがよかった時代だったのかもしれない。
日本にMTBブームがやってきたのは、その頃だった気がする。ダウンヒルの世界選手権で柳原選手が優勝したとか、そんな辺りかな。ただ、ブームになったという割にはMTBを山道で見かける事は滅多になかったので、友達と「みんなMTB買ってどこ走ってるんだろうね〜」とかよく話していたものだ。
そして、私の感覚だと、MTBの第一次ブームが引けてゆく頃になって、急に山道への自転車乗り入れが各地で禁止されるようになったような気がしている。
今まで走っていた登山道入り口には、各地で「MTBの進入禁止」などと立て札が立てられるようになり、別に登山道でもないアプローチのルート上ですら、団塊世代の登山客が「こんな所を自転車で危ないわね〜」などと悪態をつくようになった。
理由は分からないが、私の実感としては、MTBに乗った人達が大量に登山道へ押しかけた…といった事はなかったと認識しているので、恐らくイメージ先行なんだろう。ブームになりメジャーになれば、一般の登山客もMTBという単語を耳にする事も増えるだろうし、そんなのが猛スピードで登山道を下ってきては危ない!そんなイメージを持っても仕方がない。
しかし、私の実感としては、そんな登山客達の誤解を説ける程、MTBで山に出かける人は増えなかったし、また、そのイメージを覆せるほど、日本の山にMTBはいなかった。
そして、山道に出撃できなくなったMTB達は、クローズドコースを駆け下りるダウンヒル専用マシンになったり、舗装路を走るクロスバイクに進化したりし始めた。私が好きな、前後リジット式(サスなしね)のMTBは発売されなくなり、また、日本で買えるMTBの種類も減った。
山岳サイクリングに適した、軽量でシンプルなMTBは、軒並みクロスバイク仕様で売られるようになり、逆に少量残った本格的MTBは、ぶっといフレームと大型のタイヤをウリにし始める。もう、かつてのような山岳サイクリング・トレイルサイクリングに適したMTBは、発売されなくなってしまった。
その頃だったと思う、日本でMTBは死んだ…みたいにいわれるようになったのは。
つい、思い出話をつらつらと書いてしまったが、あの当時MTBに本気でハマっていた私からすると、今MTBを買っても、日本には走れる場所がないよなぁ〜と感じている。
それは「シーズンオフのゲレンデをMTB用のコースに開放しました」みたいな事ではなく、山道を地図で確認しながら、まだ見た事のない場所を自転車に乗って切り開く…といった冒険心が満たされるスポーツではなくなってしまったということだ。
シングルトラックの登山道からMTBを排除した事について、私は特に意見はないが、少なくとも、そういった山の寛容性が消えたと同時に、日本におけるMTB文化も消えていったのかなと。
最近、様々な場所で、人々の寛容性が薄れている気がする。今ではMTB乗りが雑誌の自転車記事でヘルメットかぶっていない!とかいって大騒ぎするそんな時代だ。
自転車の中で最もフリーダムな筈のMTBが、このフィールドをフリーダムに楽しめないのであれば、当然ブームは去って行くだろう。