灘渡る古層の響き/稲垣尚友
柳田圀男が提唱した民俗学の中で、特定委地域を絞り込んで研究対象とする分野を地域民俗学といいます。こちらの本もその分野に含まれるのではないかなと。
この本の舞台は、鹿児島県トカラ列島平島、島ではあるのですが、周囲を断崖に囲まれており,集落はおおよそ標高200m前後の辺りに位置しています。最近では金環日食で話題になりましたが、基本的には訪れる観光客も滅多になく、モノ好きな釣り客がたまに訪れるような人口80人程度の小さな島です。
この本は、その島で行われていた町営放送の記録を辿りながら,昭和47〜48年前後に島で起きた事件を追い、島の生活を疑似体験しつつ、少人数で育まれている村の生活を明らかにする…といった趣旨なのかどうかは知りませんけど、ま、そんな本です。
だって、本の第一章から「人のヤギの耳を切らないで下さい」です。
島で飼育されている山羊について、誰かが勝手に耳切(耳を切る形により所有者を識別している)したことについて、こまった島にいる役場の駐在員さんが、放送で止めるように呼びかける…という話。
ぶっちゃけ、その当事者以外にとってはどうでもいい話ではあるのですが、こういう細かい事件一つにしても、この村の特異性というか、さまざまな生活についてのリアルな実情が浮かび上がってくるのがとても面白い訳です。
また、行政から派遣された役所の駐在員と、村の顔役である総代との権力の二重構造なども、村の生活には薄いながら影を落としていて、「あ、共同体生活ってこんなものだよな」などと、なかなか興味深く、また納得出来たりします。
他、本書では結構な数の島の写真も掲載されており、これがまた素晴らしい。島の生活っていいな…とは安易にいえませんけど、やはり、失われた日本の農村、山村の写真は、どこはかとなくノスタルジーを感じます。
また、更なるオマケとして、この本では紹介されている町営放送が収録されたCDまで付属!なかなかお得な感じです。
実はまだ、半分程度しか読んではいないのですが、久しぶりに素晴らしい本だなぁ…と思って紹介しました。読み終えたらまたどこかでネタにします。