NAPOLEX HA-5
今のオーディオ業界はヘッドホン関係がブームで、むしろ普通のオーディオメーカーの陰が薄くなっているような状況ですが、この現在のヘッドホンブームからおよそ50年前、1970年〜1980年にかけて、ナポレックスという、ヘッドホンをほぼ専業にするという珍しいオーディオメーカーが存在しました。
メーカーとしては創立が1970年、そして1980年には会社を売却しているとのことなので、会社の存命機関はちょうど10年間。なので資料も少なくて、手持ちだと「絵で見るオーディオがイド」という昭和53年3月発行の本に国内オーディオメーカーのリストとして掲載されているのを見つけました。それによると、本社は東京都の神楽坂に存在していたようです。他、当時のヘッドホン関係資料といえばステレオサウンド別冊の本がある筈なのですが、今は奥の院から出てこないので、のちほど判明した情報があれば随時追加してゆきます。
当時のオーディオにおけるヘッドホンといえば、完全に本流から外れていて、たまにオーディオ誌で紹介されるときは、ケーブルやインシュレータと同様のアクセサリ扱いになっていました。そんな時代に、ナポレックスがほぼヘッドホンオーディオ専業であったことは、先見の明というか、当時のオーディオ業界を考えると無謀というか…まぁ、個性的なメーカーであったことは間違いありません。ただWebサイトを調べると1機種だけ、スキャンスピーク社と共同開発で普通のスピーカも発売していたようです。
そしてこのHA-5という製品は、ナポレックスが1976年に発売したヘッドホンアンプ。発売期間は1年程度の短命だったようで、当時の定価は19,800円27,000円でした。
本製品が面白いのは、ヘッドホンアンプながら、プリアウト端子、そしてMMのフォノイコライザも内蔵していること。更にテープモニタまでありますので、機能としては完全にプリアンプですねこれは。更に凝ったことに、それらの回路はすべて別回路になっています。ちゃんと配線追っていないのですが、ケースを開けると、メインの左右バランス同軸ボリウムも3連〜4連装になっていまして、それぞれ通過するボリウムが違うのかしら?他、面白いのは、メインの基板がケース上部から逆さま(しかも斜め)に装着されていて、コンデンサなどは一部を除いて全て上からつり下げられています。電源部分のみが下のシャーシに設置されており、電源部分と回路の分離を狙った構造なのかもしれませんが、実は単にこのサイズのケースに無理矢理基板を突っ込もうとしただけなのかもw。
とにかく製品のジャンルも個性的ですが、設計もかなり個性的です。
ヘッドホンアンプとしては、ちょっと高域にクセがある鳴り方ですが、音はとてもクリアでいい意味で当時の高級ステレオっぽい音が楽しめます。入手当時は低音が不足している気がして、それを補うため低音ジャンキーなウルトラゾーンのPRO900で聴いていたのですが、しばらく使っているうちに大分馴染んできたのか、或いは耳が慣れてきたのか(笑)、AKGのK702くらいがちょうどいい感じになってきました。程よい解像感と立ち下がりがやや伸び気味な音のせいか、密閉型より開放型のヘッドホンの方が、このアンプには似合う気がします。
本製品はプリアウト出力を持っていますので、もちろんプリアンプとしても使えます。現在はNAP250に繋いで聴いていますが、プリアンプとしての音はさすがに私のメインプリであるNAC12と比較できるクオリティーではありません。質もそうですが、中低域に独特なピークを感じますし、高域はもう少しなめらかさがあればと思いますが、新品の状態を知らないので本機の音質評価はできません。ただ、面白い音ではあるので、ここしばらく(といっても年末年始は自宅にいませんでしたが)は、この組み合わせで音楽を聴いています。
なにせNAC12にはヘッドホン出力がないので、HA-5だと深夜にヘッドホンリスニングを行う時でもスイッチ1つで配線替えしないで済むのが楽w
フォノイコは正直オマケレベル。聴けなくはないですが、当然ながら自宅のLINN LINTOとは比較になりません。ついでにいうとMM入力なので、SONYのHA-10を挟んで聴いていますが、それに原因があるのかも。使用カートリッジがIKEDA9cIIIなので、評価にはもう少し増幅率が高いヘッドアンプを用意すべきなのかもしれませんね。
それと、フロントの切り替えスイッチにガリがあるようで、聴いているとノイズが乗ったりしてきます。ここをクリーニングすれば直るか、或いはトランジスタの寿命か…よく分かりませんが、自分が持っているHA-5についてはフォノイコの調子はイマイチです(追記:このエントリを書いた日に再度レコード再生してみましたら、少なくともガリはありませんでした。レコードの再生音も以前の印象より大分良かったです)。
このような個性的な製品を作っていたナポレックスですが、1980年には会社を売却して、オーディオからは完全に撤退したようです。同じ名前でカー用品のメーカーがありますが、同社の沿革を読む限り、全く関係ない会社みたいですね。
1970年代といえば、住宅も今より狭かったですし、遮音性も現代の住宅よりもありませんでした。本来は現在よりもヘッドホンリスニングが求められる時代だったような気もしますが、何故かあの頃のマニアの大多数は本気でヘッドホンオーディオに取り組もうとは考えませんでした。そんな時代に当時アクセサリ扱いだったヘッドホンをほぼ専業にするとは、時代が半世紀ほど早すぎたのかもしれません。
もし、現在もこのメーカーが存続していれば、STAXと並んで日本のヘッドホンオーディオを盛り上げていたのかもしれないと思うと残念です。そして当時の社員だった人達は、今のヘッドホンオーディオの盛り上がりを、どんな思いで見つめているのでしょうか?
コメント
こんにちは、はじめまして、兵庫県在住 渡辺と申します。
flatearth.Blogをちょこちょこ、参照しております。
ネット世界を放浪し思うのが、ネット世界で多いのが、10代とか20代の若い人物で、具体的に数字で表すのは、無謀かもしれませんが、当方の実感では、99%(10代とか20代?)といった実感なのです・・・。
がっ、このflatearth.Blogは、これと異なる感想を感じるんですが、実際のところは、いかがなのでしょうか?
オーディオ関係のコメントが多いようですが、当方もオーディオに昔から興味があり、こちらは関西なので、私は今から20年ほど前の大阪日本橋に、よくオーディオ機器を入手しに、でかけたものでし
た・・・。
さて、わたくしは、ホームページも開設しております。よろしければ、参照ください。
URL: http://binge2.web.fc2.com/
e-mail: binge1_1@yahoo.co.jp
それでは。
投稿者: 渡辺 文語 | 2018年01月13日 04:28
渡邊さん
コメントありがとうございます。
ホームページ拝見させて頂きました、中々多趣味なようですね。
最近はオーディオの記事が多いのですが、実はオーディオ意外にも色々やってるので、そっちのネタも公開していかないとなと思っているところです。ブログの更新頻度も大分下がってしまったので、もっと沢山のネタを欠いていければ良いのですが。
更新頻度は低いですが、これからもお読み頂けると嬉しいです。
投稿者: よっち | 2018年01月19日 23:09
自分は、ここのHA-3を現行当時に買って使ってました。
何年かしてコンデンサーをblack gateに入れ換えたら無茶苦茶良い音になってビックリしました。
調子に乗ってバッテリー駆動にしたら、Trと抵抗を焼いちゃってオダブツです。
スキルが足りなくて修理出来ず、バラバラになった残骸が残っています。
出来ればもう一度入手して使いたいものです。
以前、適価の良品を迷って落札しそびれたのが悔やまれます。
投稿者: S.S | 2018年06月06日 22:36
.S.Sさん、どうも。
HA-3をお持ちでしたか!
私は実物を見たことないですね。どこかのドフに転がっていないかな?
ブラックゲートのコンデンサ、今調べたら値段がすごいことになってますね。そういう話を聞くと自分でも手を出したくなりますが、私もスキルがないので。
トラブルのHA-3ですが、Trと抵抗だけの交換で済めばいいでしょうが、他も壊れているかもしれませんし、かといってそれなりのお金払って修理という機種でもないので難しいですね。修理というか、自作ヘッドホンアンプの素材といったノリで手を入れてみては如何でしょうか?
他にもNAPOLEXネタがあればよろしくお願いします。
投稿者: よっち | 2018年06月07日 08:02
返信有り難うございます。
壊した当初は代替えのTrをパーツ屋で探して貰い、入れてみたのですが、駄目でした。焼けた抵抗もカラーコードを読み間違えたかな?
今ならネットが有りますから、パーツをオリジナル通りにして復元可能でしょう。(完全絶番でない限りたぶん)
ただ、惜しむらくはオリジナルの素子が行方不明で訳ワカメ…
オマケに下手なハンダ処理でパターンがボロボロ。
出来ればオクでHA-3を入手して構成を探り、新たに基板起こしてコピーしたいですね。(その辺の心理は複雑もしくは微妙)
一応、型取りするオリジナル基板とボリュームとスイッチは有りますから。
ま、そんな気分ではあります。
あと、あれはヘッドフォン出力0.5Wですけど、金が無くて暫くロクハン(4chのリアスピーカー)を繋いで鳴らしてました。
それしか無いと思えばそこそこ聴けましたよ。(笑)
ではまた。
投稿者: S.S | 2018年06月07日 08:55
.S.Sさん
基板のパターンがわからないのは残念ですね。
いつか直るといいのですが。
HA-3とか、自分も安く見つけたら手を出してしまうかもしれません。
それと、こうなるとNAPOLEXのヘッドホンもどれかほしい気分ですね。
投稿者: よっち | 2018年06月08日 15:06
懐かしい機種の記事ですね。
私もHA-5 を愛用していました。ヘッドフォンアンプとして同じNAPOLEX のCT-X1MKⅡやX-23で聴くのはもとより、ONKYO のパワーアンプIntegra931とKLHのスピーカーModel 32の組み合わせで楽しんでいました。価格からは信じられないくらいの高級な音に満足していました。
https://blog.goo.ne.jp/meg_8086/e/ee05a8aedc7316a35586143b3013c085
https://syoso-chunen.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13
特にパワーアンプは、管球アンプを思わせるような、あるいはSL を髣髴とさせる佇まいにも味がありました。
金のない学生時代から、やがてQUAD のアンプとB &Wのスピーカーなどのラインアップに進むまで、私のオーディオ人生の初期を彩ってくれました。
その中核をなすHA-5に関する記事を懐かしく読ませていただきました。
投稿者: ぶんぶん | 2018年08月26日 00:00
ぶんぶんさん、はじめまして。
お読みいただいてありがとうございます。
NAPOLEXお使いだったんですね、私は逆にこのプリアンプしか知らないので、NAPOLEXのヘッドホンも聴いてみたいものです。
Webサイト拝見させていただきましたが、機械いじりが得意なようでうらやましいです。自分も基板のパーツをササッと交換できるくらいになれば、もっと古いオーディオも楽しめるのではないかと思うのですが。
これからも、適当に古い機器など紹介してゆきますので、よろしくお願いします。
投稿者: よっち | 2018年08月27日 15:19
今晩は
サイトは機器の紹介のため、webから引用させていただいたものです。私が機械いじりをしているわけではありません。
誤解を与えて済みませんでした。
昔金のない学生時代になんとか揃えた(最初はHA-5とヘッドフォンだけで聴いていて、後にパワーアンプとスピーカーを追加)低価格の機器をそれなりに評価しているサイトを発見して嬉しく思いました。
後にYAMAHA GT-2000やNAKAMICHI の世界に入る良い導入になったと懐かしく思います。
投稿者: ぶんぶん | 2018年08月30日 21:57
ぶんぶんさん、こちらこそ誤解してしまって申し訳ございません。
GT-2000お持ちなんでしょうか?今見ると、重量級ですごいプレーヤーですよね。
自分は現在、LINNのBASIKと、友達からもらったTechnicsのSL1600というフルオートの中古を使っています。なかなかたのしいです。
では。
投稿者: よっち | 2018年09月04日 11:01
少し前に入手しました。
例のごとくコンデンサーは全て交換し、配線も線材を変えてやり直しました。
良くなったかどうかは自画自賛するしかありませんけど。(笑)
開けて見てわかったことは、これのphono入力が100kΩ受けだったこと。
通常は47kΩですから、厳密にはエンパイヤのカートリッジくらいしか適合しません。
SHURE type3で聴いてみた範囲ではそれほど違和感ないのでそのままでもOKかと。
自分はRCAアダプターを使った方法で入力抵抗を色々と変える予定です。
ちなみに改造にかかった費用は本体の値段を軽くオーバーして2台買える程でした。(苦笑)
投稿者: SS | 2021年09月13日 18:59
SSさん
情報ありがとうございます。
なるほど、結構特殊なフォノイコだったんですね。
自分は、MCカートリッジに適当な昇圧トランス挟んで聴いていたので、そんなに違和感を感じないというか、こういうモノだろうと思っていました。
自分の手持ちも、色々メンテナンスしなければいけない状態なんでしょうが、とりあえずそれなりの音は出ていますのでそのままです。常用しているわけでもないので。
しかし、調子のよい本来の音に近い状態のHA-5は聴いてみたいですね。今の手持ちがどれだけの調子なのかも分かりませんし。
では。
投稿者: よっち | 2021年10月11日 20:07