Victor AX-Z921
Victorといえば、何となく手堅いオーディオメーカーのイメージがありますが、バブルの頃は、世界でもこの会社だけという個性的なアンプを作っていました。それがAX-Z911と、今回紹介するAX-Z921です。
AX-Z911については以前ここでも紹介しましたが、今回のAX-Z921はその後継機種となります。
このアンプ最大の特徴は、K2テクノロジーと呼ばれる回路を始めて搭載したアンプであることです(ちなみに市販の機器初搭載は同じくVictorのXL-Z711というCDP)。K2テクノロジーについて詳しくは上記リンク先を読んでほしいのですが、簡単に言うと、受け取ったデジタル信号の歪みを補正して、よりオリジナルの音源に近づけようという技術。
この技術は今でもデジタル録音の現場では使われていて、近頃は配信の音源でも、この技術を使ってビット拡張したデータが売られたりしていますが、これがニセレゾなのかどうかの問題は今回のエントリと関係ないので触れません。
そのK2テクノロジーの恩恵なのか、AX-Z921の内蔵DACは、今となっては荒っぽさが魅力でもあったAX-Z911の内蔵DACと比べて、少し優しい音を出します。よく言えばアナログライクな…悪くいえば個性がなくなったといえなくもないですが、販売当時の世相を考えれば、AX-Z921の音は、正統な進化を遂げたといえるでしょう。
その他、重量もAX-Z911の19kgという重さからちょっとだけダイエットしていて、AX-Z921の重さは18kg。まぁ…それでも充分重いアンプだとは思うのですが、その1kg分は例の3mm厚の天板がAX-Z921ではなくなっていることが要因のひとつなのかも。その他内部のレイアウトもAX-Z911の理想主義的な配置よりはやや現実的になっている気がします。
AX-Z921が進化しているのはK2テクノロジーだけではなく、例のデジタル信号を解析したA級動作も進化しています。なんでもダブルピュアAタイプII回路と呼ばれる技術で、AX-Z911が受け取ったデジタル信号を解析して最大パワー20Wが超える時点で増幅回路をAB級に切り替えるといった処理をしていたのに対し、AX-Z921のダブルぴゅあぴゅあ〜な回路は、受け取ったデジタル信号のパワーを解析し、A級の増幅回路に流すアイドル電流を動的に制御しているようです。
そのため、A級動作時には天板がチリチリに熱くなるAX-Z911に対して、AX-Z921の場合、ご家庭で常識的な音量で聴いている限りは、A級動作時でも確かに天板熱くはなりますが、割と常識的な熱さに留まります。少なくとも天板全体が熱くて触れないなんて状態にはならないです。確かにこれでもA級動作には違いないのですが、なんだかズッこ〜!といいたくなる気もしますね。
お互いのA級動作状態の音を比較してみても、AX-Z911は再生音に熱いシンパシーを感じますが、AX-Z921は確かに高音質なんだけど音楽に熱さが足りない…ってのは全くの気のせい(笑)。音楽の熱さはともかくとして、AX-Z921のA級増幅は、AX-Z911に比べてもうすこし洗練された音になった気がします。
これは完全に私の想像ですが、AX-Z911のあの熱さは色々な部分でご家庭用オーディオ機器としてはマズかったんだろうなぁ…。おそらく故障も多かったでしょうし、当時主流だったガラスのトビラ付みたいなAVラックに収まっている状態で使い続けていると、確実に熱で保護回路が働いたと思います。コンデンサなど内部パーツの寿命も大幅に短くなったでしょう。また、アンプの上に何か別な機器を重ねて使っている人(当時だとこういうセッティングは割と当たり前だった)は、アンプもはもちろんのこと、上に積んだ機器も熱でトラブルが発生したかもしれません。
このように一般家庭用のアンプで完全なA級動作ってのは、何かとハードルが高いんだろうなと、AX-Z911のチリチリに熱くなる天板を横目に音楽を聴いていると、そんなこと思ったりもします。
それに比べるとAX-Z921の方は、熱くなるといっても割と常識的な熱さなので、上に別の機器を重ねて使いでもしない限りは、そんなにトラブルも発生しないのではないかと。
まぁ…純粋なA級動作としては、アイドル電流をこうやって上げ下げするより、定格電流を流しっぱなしの方が回路が安定するので音は良いはずなのですが、ご家庭用のオーディオ機器である以上、こういうのも仕方がないのかもしれませんね。
そうそう…例の裏技のDAC2からのアナログ入力のA級動作ですが、AX-Z921では…わかりません。というのも、天板外しても例のパイロットランプもなさそうですし、となると本格的な回路解析でもしない限りはアンプが発する熱から判断するしかないのですが、試してみた結果は、それなりに熱くなっているので、多分A級動作しているんじゃないかな?としかいえません。この辺はA級動作してると信じている方がスッキリして良いので、私はそう信じとくことにします(笑)。
その他、アナログ系統の音質もデジタルA級の音と同様、AX-Z911のパワーを押し出す荒削りな音に比べて、AX-Z921の音質は全体に洗練された印象を持ちます。比較してどっちが高音質か?と評価すれば、AX-Z921の方が音は上なのですが、こういう古いアンプの個性を楽しむのであれば、AX-Z911の方がわかりやすく個性的で面白いかもしれません。
外見をチェックしてみると、AX-Z921のフロントパネルは、AX-Z911と同じくプリズムみたいな奥行きのある美しい表示部。ただA級動作中を示す「OPERATE」というインジケータはなくなりました。
入力の切換は、AX-Z911のトグルスイッチからそれぞれ入力別のプッシュボタンに変更され、便利にはなりましたけど見た目はちょっとカッコ悪くなったかも。
その他大きな違いは、AX-Z921はスピーカー出力が二系統になったことで、私の場合、スイッチひとつでメインスピーカーと、PC脇のサブスピーカーへの出力に切り替えられるようになって、便利になりました。
そうそう、どちらも重量級プリメインの割には、リモコンで音量と入力切り替えが可能です。リモコンモータ付のボリウムについてAX-Z911はまだ手慣れていないのか、ヌルッとしたあまり触り心地が上質な感じがしないボリウムだったのですが、AX-Z921はその辺もうすこし節度感のあるボリウムになりました。
他、スピーカーの左右バランスや、低音のトーンコントロールは、AX-Z921になってちゃんとハッキリと効くようになっています。トーンコントロールはともかくとして、AX-Z911の左右バランスは、なんだか微妙な効き具合でちょっと不思議な感じもしましたしね。
ということで、アンプとしての性能でいえば、AX-Z921はAX-Z911からの正統進化版で、音質や使い勝手など全ての面で進化しているのですが、どちらが魅力的なアンプかといえば、AX-Z911の尖った感じも悪くないなと思ったのでした。
あ、そうそう…フォノ入力については、AX-Z921の方が確実によかった気がしますが、この辺古いアンプって個体差もあるので、実のところ音質評価については何ともいえないんですよね。
↑例の表示部は、緑と黄緑に統一されています。