SPI The Next War ~Modern Conflict in Europe~
SPIという会社がありました。これは適性検査ではなく、1960年代から1980年代初頭までアメリカで存在したシミュレーションゲーム会社。会社名のSPIとはそのものズバリ「Simulations Publications Inc.」という名称の略で、会社が存在した約10年間の間で総数300種類程度のシミュレーションゲームを出版していたようです。
往年のSPIはビッグゲームが有名となり、日本のゲーマーにも有名な第二次欧州大戦や、多分この世で最後までプレイした人はいないのではないかと言われる、Campaign for North Africaなど、かなりマニア向けな製品をリリースしていたメーカーというイメージがあります。
このNext Warもそのビッグゲームのひとつで、時は1970年代、舞台は東西がにらみ合うヨーロッパ大陸中央における闘いを、22×34インチSPIサイズのフルマップ3枚+ミニマップ2枚、そしてユニットとマーカー2,400個あまりで再現したゲームとなります。対峙する陣営は、西側諸国であるNATO軍と、東側のワルシャワ条約機構軍です。
もっとも、本ゲームにおける現代戦とは、今となっては既に半世紀前に起きたかもしれない戦争のシミュレーションであり、当然現在の社会情勢ではあり得ないシチュエーションでもある訳です。というか、平成生まれの人にとっては、あの頃のヨーロッパ大陸がどれだけ一触即発な雰囲気だったか…実感が沸かないと思います。
あの頃のアメリカとソ連は、いまでいう米中の貿易摩擦対立なんてお話にならないレベルで真剣に対峙していました。お互いに敵国(陣営)を「悪」であると罵り、隙あらば冷戦で分断された東西ドイツを取り戻そうと、両陣営が東西の国境付近に多数の実戦部隊を配備しています。
まさかあの時代背景で、東西ドイツが戦争もなく統一を果たせるとは考えもしませんでしたね(ちなみに本ゲームのメインデザイナであるJ・ダニガン氏はソビエトと東側陣営の崩壊を別な著書でかなり正確に予測しています)。なので、どんなに絶望的な状況でも、戦争回避の努力は怠ってはならないんだなと改めて思います…って話がずれました。
このNext Warは、現代戦のダイナミックな戦場を再現するために、移動に関して他のゲームとは違った特色がありました。
まず、全陸上ユニットは基本的に移動力20を持ち、戦闘も移動力を消費する事で行います。基本戦闘に必要な移動力は4で、ユニットはその移動力(と受けた被害)の許す範囲で、移動フェイズ中に何度も戦闘が可能になります。
なので、戦闘結果は同時適応ではありません。移動順に解決してゆくこととなり、また多くのシミュレーションゲームで見られる、複数ユニットによる単一ユニットへの同時攻撃もいくつかの例外を除き不可能です。そういった複数ユニットによる攻撃については「波状攻撃」というルールで再現されており、同一ターンで2回目以降に攻撃を受けたユニットは、戦闘解決表で1コラム不利を得ます。
基本移動力は20ですが、自軍への不利を厭わなければ、陸上ユニットは最大移動力50を1ターンで消費する事が可能です。ただ、21以上の移動力を消費した場合は1移動力消費ごとにおよそ1/2の確率で疲労する疲労チェックを受け(当然疲労したユニットは弱体化します)、更に31以上の移動力を消費したユニットは、5/6の確率で疲労、41以上の移動力消費では(もはやここまで無傷ではいられないと思いますが)確実な疲労判定を受けることになります。疲労は2ポイントまで累積可能ですがそれ以上はステップロスとなるため、最大50移動力を使える状況はほぼないかと。ちなみに、疲労は時ターン以降、移動力10を消費すれば1段階回復できますが、ステップロスは、移動フェイズ前の補充フェイズで補充を受けなければ回復不能な上、補充を受けたターンは行動不能となります。
私はまだこのゲームをプレイしていないのですが、上記の移動ルールが何を意味するのかというと、つまり一般的な作戦級シミュレーションゲームにおける戦線の考え方が通用しないということです。
本ゲームでは主に防御側となるNATO軍は、強力な部隊を前面に展開して敵攻撃部隊を足止めする古典的な戦線防衛戦術ではなく、次から次へとドリルのごとく強引に戦線をこじ開け進軍してくるワルシャワ条約軍を、縦に深く防御し妨害しなければなりません。
この展開は、実際に当時のワルシャワ条約軍が採用していた縦深作戦を再現しています。
縦深作戦とは、第二次世界大戦時のドイツ軍による電撃戦にも似ていますが、この作戦が採用された理由は第二次世界大戦当時の電撃戦とは少し違い、ワルシャワ条約軍はNATO軍による戦術核兵器の使用を警戒していたから。
つまり、広く敵正面に部隊を展開させ火力で強引に敵を押し込むといった従来のソビエト軍の戦術(ドイツによる電撃戦は結局こういったソビエトの古典的な重火力主義に敗退しています)では、戦術核による敵の反撃には対処できず、そのためワルシャワ条約軍は、NATO軍が核や化学兵器の使用を躊躇うくらいに戦線を混乱させ、進軍している先頭集団を地域制圧ではなく、強引な進軍でに西ドイツ国内へとなだれ込ませることにより、NATOに核兵器や化学兵器を使用させる隙を与えない(無理に使用すると地域住民が巻き添えとなる)という戦術を立案していました。このNext Warの自由な移動ルールは、そういった展開を狙っているのかと思います。
こちらがNext Warのマップです。先に記したサイズのフルマップ3枚と、何故か小さな補足マップが2枚。北は北海とバルト海の一部、南はアドリア海の一部が含まれた、まさに冷戦時のヨーロッパ最前線における南北が全て含まれています。写真の右側に立てかけてあるLPレコードのサイズでおおよその大きさが理解できるかと。左側にあるふたつ飛び出ているへんなのは、私の足(笑)。
マップそのものは、往年のSPIカラーでとても美しく、プレイ意欲がわいてきますが、このフルマップを全て平らな状態で広げるには、会議室用のテーブルが必要になりますね。
Next Warについては、私が子供の頃シミュレーションゲームを買い漁っていた頃でも既に幻のゲームとなっており、専門誌の売ります買いますコーナーでは、4万5万で売ってくれなんて投稿が沢山あり、中学生の頃の私からすると、そんな値段では例え興味を持っていても買うことなどできませんでした。もっとも定価だとしても当時で18,000円もした訳で、例え新品在庫があっても買えなかったでしょうね。
大人になってもこのゲームには興味を持っており、手に入る機会があるなら手に入れたい…と思ってはいたのですが、ヤフオクなどで出品されているNext Warは、定価の倍近い価格で出品されていて、更に日本語訳が付属しないセット(日本語訳コピーとはあるけどちゃんとしたモノなのか確信も持てないし)なので、入手は諦めていた訳です。そもそも本国のアメリカですら1980年代からプレミア化しているゲームなので、日本での新品在庫が残っているとは考えてもみませんでしたし、極まれにオークションへ出品される中古は、プレミア価格もそうですが、…シミュレーションゲームの中古はね…ユニットが切り離されていたりすると、そもそもそのユニットは全て揃っているのか?という疑惑も生じてしまう訳で、覚悟がないとなかなか手を出しにくい。なので、将来に渡って入手のチャンスはないだろうなぁ〜なんて諦めていたのです。
それがね、都内にある某大手のヲタショップで、パッケージがかなり綺麗な状態で棚に並んでいるのを発見!
その時はまさか未使用で日本語訳付きかとは思ってもいなかったのですが、念のためレジで中身を確認させてもらったら、なんと完全未使用品のホビージャパンによる正規日本語訳付き。当然ユニットは切り離されておらず、ルールブックにも全く折り癖や手垢が全くない、正真正銘の新品らしき極上品でした。ちなみにシミュレーションゲーマーにはコレクションとしてこの手のゲームを買い漁る人もいるのですが(多くは様々な要因の結果としてコレクションになってしまうという状況なんですけど)、それでもほとんどの場合ルールブックは読まれるので、手垢と折り癖がない製品というのはレアなんですよね。まぁ…自分もそこまでミントな状態に拘る訳でもないのですが、それにしてもこんな状態のNext Warが21世紀のこの世に存在しているとは思ってもいませんでした。
しかもお値段は、5桁ではあるけど当時の定価より安い。これはもちろん買うでしょ…と購入してきたという訳です。これは、大げさに言うと平成の奇跡かなと。
更に奇跡は続くもので、その数週間後には別な場所で本ゲームと同じNext Warのユニット切り離し品の中古(こっちはバッチリ中古でした)を安値で発見。ハッキリ言って私はこのNext Warのユニットを切り離すのがもったいない(笑)とか思っていましたし、その割にルールブックを読むとすごく面白そうなゲームなので、思わずプレイ用にもうひとつ確保(爆)してしまいました。保管用と使う用ってのが実にヲタっぽくはありますけど(火暴)。
新品状態のゲームを持っている状況なら、ユニットが多少不足していても校正が可能ですからね。それに状態を見る限り、ルールブックはかなり使い込んで手垢たっぷりでしたけど、ユニットはきちんと種別ごとに整理されていて、おそらくほとんどは揃っているのではないかと推測できたので。もっとも、いくら校正が可能とはいえ付属ユニットの多数が紛失…なんて状態のゲームには手を出したくありません。
そんなこともあり、今私の手元には、Next Warが2セットあることになってしまったのです。
このゲームは、キャンペーンシナリオはさすがに場所と時間の覚悟が必要ですが、ショートシナリオなら普通に1日でプレイ可能みたいですし、先に解説した「懐かしい未来、なくて良かった未来」ともいえる当時の現代戦を体験できるということで、私自身、とても興味津々なゲームなのです。なので、いつかがんばってプレイしてみたいなと思っています。
こちらは、1983年6月に発行された、ホビージャパンによるシミュレーションゲーム専門誌、タクテクスの8号にある紹介記事。この時点で「当社にも在庫はない」なんて書いてありますね。
この記事は、リプレイというより、Next Warの特徴的なルール解説の趣が強いのですが、読むとますますプレイしたくなってきます。