日本風俗図誌/ティチング:沼田次郎 訳
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都内のカフェで何となくこの本の事を思い出し、何となくネットで検索してみたら、神田の古本屋で安く在庫しているのがわかり、早速回収しに行ってきた。ネット万歳(笑)。
つことで、ティチングとは江戸時代における出島オランダ領事館に派遣されていた役人。折しも彼がオランダに派遣されている期間中、オランダ本国が戦争に巻き込まれ、オランダそのものが消滅してしまっていた事もあり、帰国が遅れに遅れてしまい、仕方なくなのかどうなのか判らないが、その間彼は日本に関する詳細な研究成果を書籍としてまとめていた。本書はそのティチングの原稿をフランスの出版社が出版して、それを日本語に訳したもの。本書の奥付を見ると「昭和45年出版」とあるから、古本としてもけっこうな時代のものです。
まだ全てを読んでいないのだが、内容は実に面白くて興味深い。
ちなみに本書が書かれた年代は1770年代であり、当然徳川家の「正史」などは存在しないし、またそれらについての書籍も発行を禁じられていた。そんな中でこれだけ正確な情報が世間(もちろんオランダ領事と接触・情報提要できる日本人はインテリ層であること前提なのだが)に広まっていたとは驚き。ちょっと私たちが知っている歴史と違うかなと思ったのが、5代将軍綱吉が大奥に暗殺された…という事位で、他は不気味なくらい私たちが知る徳川史の知識と一致しているのが不思議。また、8大将軍吉宗が実にナイスガイであったエピソード(いやほんとに)などが、割と細かに語られている。
他にも由井正雪の事件や、赤穂浪士の件など(当時赤穂浪士についての出版は禁じられていた)、私たちが知っている通りの知識を、江戸時代真っ盛りのオランダ人が知っている…というくらい、江戸時代は情報が発達していたという社会の背景を読み取る事ができて、実に面白い。
少なくとも私たちが学校の歴史で習う以上に、江戸時代の風俗と情報は自由で正確で日本全国へと配信されていた…と考える事ができるだろう。そういう面で、本書からはこの直接の記述以上に、江戸時代のリアルな社会情勢を想像する事ができる。
当時の江戸時代を、江戸時代に属していない人が江戸時代を理解させるために書いた報告書。この文章は、私たち現代人にとっても、当時の世相をリアルに味わえる、実に良い本だと思う。惜しむらくは版元品切れという事。よって、現在は古本市場をあたるしかない。