創るセンス・工作の思考/森博嗣
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ミステリ作家、森博嗣のエッセイ。本屋さんで立ち読みしてみて、面白そうなので買ってみた。
早速読んでみたのだが、この本のような考え方は、工作する人だけではなく、クリエータやプログラマにも身につけてもらいたいなと思う。
私も子供の頃は、工作少年だった。家の周りは、丁度新興住宅地、工業開発地に囲まれていて、建設中で放置されている材木やトタン板など(放置していたのではないかも知れないが)、様々な素材を拾って、色々なモノを作った。
子供だから設計図とか考えずに、思いつきで、のこぎりで切ったり釘打ったりという、工作と言っていいものか判らないレベルだったが、それでも楽しかった。また、家の中では、厚紙やノリ、セロテープなどを使って色々おもちゃも創った。本書の中にある「厚紙と輪ゴムで創った、自動販売機のおもちゃ」も、すぐに作れと言われても無理だが「あ…こんな方法かな…」とは何となくはイメージできる。というか、動作の仕組みを考えるのもそうだが、厚紙のあの素材感や強度など…そういう部分でのイメージが出来るのは、やはりそのような工作の経験があったからだろう。
話はちょっと変わるが、真面目な人生を送っていないような私でも、たまに人から相談を受ける事がある。「デザイナになりたい」「Webディレクタになりたい」そういうときの私の答えはまず「なればいいじゃん」である。
デザイナになりたいと思うのなら、その瞬間から、色々な作品を作ればいいし、Webディレクターになりたければ、自分でサイトを立ち上げて、そのサイトをセルフディレクションすればいい。幸い、今ではPCもデジカメもブロードバンド回線も無料のサイト開設に使えるストレージも、とても低いコストで手に入る。私がWebサイトを作り始めた前世紀とは大違いだ。
こんなに恵まれた環境で、自らの意志で創造活動をスタートできないというのなら、陳腐な言い方をしてしまうと「あなたには向いていない」ということなのだろう(もっとも、その質問で「デザイナとして食べていきたい」「Webディレクタとして収入を得たい」というなら、また解答は別になる。私だってまだ判らない)。
最近はプログラマについても同じような事を感じる事が多い。私自身はコードを全く書けないし、そもそもプログラムなんて書こうと思った事もないのだが、それでも「こんな機能をもつプログラムを作りたい」という要望に対して難しいというプログラマに「このデータのこの部分を取り出して、それをキーにしてこの形でまとめ直して、その後必要なデータを抽出して…」みたいに実現可能な概念を提示するという事が多い。その概念を教わると「なるほど」と納得して、彼等はコードを書き始めるという感じ。
このような事が出来るから自分は偉い、とか言うつもりはないけど、それでも彼等に対して感じてしまうのは、最初の一歩…つまり「創り始める」という思考のプロセスが訓練されていないんだな…ということ。以前もツイッターでつぶやいたのだが、こういった仕事をやりたいという人は、それこそ自分のセンスやアイディアを自ら出力したくて仕方ない人達かと思っていたのだが、最近はそうでもないようだ。
私はビジネス書をほとんど読まないが、世の中の評判や、本屋さんでのタイトルを見る限りでは、「与えられた課題を如何に効率的にこなすか」という情報に偏りすぎている気がする。
そうではなく、やはり仕事の基本は、自ら何かを創り出して、それで報酬を得る事ではないのかと、こういう仕事を続けてきた私はそう思っている。
本書は、物作り系エンジニア向けに書かれたと思える文体だが、その考え方は、全ての仕事をしている人にとって役立つものだと思う。どんな状況でも、どんな年齢になっても、想像力は常に鍛えよう。