すてきな切手本「切手帖とピンセット/加藤郁美」
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本屋さんで見つけて衝動買いしてしまった本。タイトル通り、様々な切手のデザインが紹介されている本ですが、その中でも本書は「1960年代前後の東欧〜アフリカ諸国」など、ちょっと珍しい世界の切手に焦点を当てているように思えます。新鮮なデザインの切手がカラーで数多く紹介されていて、眺めているだけのつもりでも、ついつい見入ってしまう、とても面白い本です。
それはさておき、本書の中の文章で気になる部分がありました。それは、この本の中でコメンテーターが戦後デザインについて語っている部分。「戦後デザインのピークは1959年から1964年くらいまで」という説です。何故気になったかというと、私もその主張には大いに賛同できてしまうからです。
本書では「世界中で戦争に明け暮れていた時代がようやく落ち着いて、10年位のタイムラグがあった後の1960年前後は、デザイナや職人達が希望を持って新しいアイディアを試した時代。そしてその時代、世界は戦争の傷跡から回復し、消費者の財力も付いてきたいいタイミングだった」と語っています。それが1980年代になってしまうと、デザインの意味が変わってきてしまい「本当によいものを届けるためのデザインが、既に持っているものを更に買わせるためのデザインに変質してしまった」ということ。確かにそうかもしれません。
この文章を読んで、私が学生の頃に受けたマーケティングの講義で、講師が一番始めに語った言葉を思い出しました。それは、
「マーケティングで、良い商品をより多くの販売に結びつけることは可能ですが、どんなに優れたマーケティング手腕を用いても、悪い商品を多く売ることはできません。それがマーケティングの限界であることを覚えておいて下さい。」
という言葉。今までこのような現場で働いてきて、この言葉は私の中でベーシックなマーケティング・企画の基礎理論としてずっと心に留めてきていました。
しかし、とはいいつつも、今の時代では決して良い商品でないものを、強引なプロモーションで消費者に押しつけるような手段が増えてきたようにも感じています。それをマーケティングというくくりで語ってしまっていいのかは判りませんが、そんな事を思いながら、本書の「本当によいものを届けるためのデザイン…」という下りを読むと、妙に心に残ってしまいます。
あまり同業者とのつきあいが多くない私ではあるのですが、それでも以前デザイナと語り合ったとき、もっと早く生まれて1960年代にデザイナとして活躍したかった…と言っていた人は何人かいました。彼等はきっと、あの時代「良いものをより良いデザインでお客様の元へ」という、シンプルで力強い、ストレートなデザインの力を信じられた時代の良さを、本能的に感じ取っていたのかもしれません。
後半は本書の内容とは関係ない文章になってしまいましたが、今からちょっと古い時代…デザインがデザインとして自由に力を発揮できた時代の記録としても、とても面白い本です。
購入するときは、下にアマゾンのリンク貼ってしまいましたが、直販で買うとオマケ付きなのでおトクかも。内容が気になる人には中身全184頁のプレビューなんてのもありますね。web副読本アクセス・ワードってのは、自分は本屋さんで買ったのでもらってませんけど、ほしかったなぁ。