自然の観察/昭和16年:文部省著作・発行
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農文教から発行された、戦前、昭和16年に旧文部省から発行された、教師向けの理科指導要綱をまとめた本。
専門書ではあるが、何となく立ち読みしたら、その内容の素晴らしさにビックリして思わず購入してしまった。
カバーの裏折りには“「自然の観察に教科書は不要。強いてつくれば教師は教科書で指導して、子どもを屋外に連れ出すことをしなくなる」という趣旨から、教師用書のみを作成。”とある。
内容はもう、指導書と言うよりはもはや文学と言いたくなる素晴らしい文章も、例えば第20課「とり入れ」では、
このころの特徴ある野山の情景には、高く澄みきった大空や、田の面を伝わる黄金の波、みのった穂のおもおもしく垂れた様、ひびく鳴子に飛び立つぬむらスズメ、快く響き渡る脱穀機の音、せっせと働く村人の姿などがある。これらの情景に接しさせて、児童の心にみのりの秋を印象づけるように努める。
などと、まるで農村の情景が目の前に広がってくるような名文だ。他にも季節毎の草花、虫、鳥、動物などへの記載も、目の前に季節の風景が思い浮かんでくるような書き出しから子ども達への指導について書かれている。
こういう身近な自然への知識は、子ども達だけではなく、私達大人もすっかり忘れてしまった部分が多い。私も読み進めるにあたって「なるほどなるほど…」と思いながら読ませて頂いた。そして、一度読んでおしまいではなく、季節毎に該当の章を読み直してみようかなと思っている。
この文章は戦前の日本で書かれた教科書。しかし、内容には軍国的・全体主義的匂いは全く含まれず、ただ目の前の自然に対して謙虚に科学的に観察されている姿勢は、戦前の学校教育へのイメージを覆す進歩的なものだった。このまま今の学習指導要綱に使ってもなんの問題もない、とても濃く、美しい指導書だ。
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復刊・自然の観察/文部省:日本初等理科教育研究会・日置光久