自動車の横に注目してみよう
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ちょっとカーデザインのお話。
街中には様々なデザインの自動車が走っていますが、自動車というのは大衆化が進み大量生産されるようになってから、様々な視覚のトリックが施されています。
例えば、自動車の顔と呼ばれるフロントグリルですが、60〜70年代の自動車ではそれなりにフロントで存在感を示していましたが、80年代になると、フロントグリルレスともいうべき、薄くスタイリッシュなフロントグリルが主流になりましたよね。
ただ、フロントグリルとはボンネット中のエンジンを冷やすための穴ですから、無くするわけにはいきません。そこであの時代の自動車は、フロントバンパーの位置を上に上げて、その上に薄く横長のグリルを装着し、バンパー下の目立たない部分で大きな開口部を付けるという視覚のトリックを使っていました。
当然ながら、決してフロントグリルが無くなったわけではありません。
ちなみにそのグリルですが、更に一回りしてAUDIがトレンドを作った「シングルフレーム」というスタイルで、再びフロントグリルの存在感が求められるようになったのが面白いトコロ。デザインは繰り返すんですね。
ということでここでは、最近私の周りでちょっと話題になった自動車のサイドビュー、中でもパネルラインがもたらす視覚トリックについて語ってみたいと思います。こちらも単純ながら視覚を惑わすには効果的で面白いですよ。
そもそも、自動車のサイドに入っているパネルライン。かつての手作りに近い自動車の時代ではほとんど存在しませんでした。
昔の自動車は、エンジン・タイヤ・ブレーキ・操舵機器や各種補機類などがシャーシの状態で組み立てられて一旦納品され、それを覆うボディは、専門の板金職人達がオーナーの注文に従いボディを作り、架装するスタイルでした。今で言う「カロッツェリア」ですね。カーナビではありませんよ。
その職人達の誇りは、堅いはずの鉄板をよりなめらかに有機的なラインでまとめ上げることでした。今見ても、クラシックカーのフェンダーなどは、プレスでは作れない程複雑でなめらかな曲線ですよね。そんな時代ですから、ボディにラインなどを入れるのは野暮とされていました。
それが、戦後の自動車大量生産時代になり、自動車のボディは手作りではなく、工場で鉄板をプレス加工して大量生産するようになります。また、ボディのモノコック化も進み、ボディ外装はそれなりに応力を受け止めなければならなくなりました。
その課程で、薄い鉄板の強度を上げるために、パネルに折り目を付ける「パネルライン」が採用されるようになります。しかし、このパネルラインは、後にボディの強度を上げる為だけではなく、様々なデザイン、視覚のトリックなどに使われるように進化します。
まずは下の図をどうぞ。クリックしても拡大はしませんが、別ウインドウで開きますので、文章の横に置いた状態で以下の解説を読んでみて下さい。
①:架空の自動車のサイドビューです。架空と言いつつAUDIっぽいのはご容赦。自動車の横顔は、光やパネルのラインがないと、割とのっぺり、ずんぐりとしています。
②:そこで、ボディにラインを入れてみます。この腰高で地面に対して水平なラインは、80〜90年代のドイツ車が多用していたスタイルで、端正な印象があります。当時のドイツ車は直進安定性の鬼でしたので、何処までも真っ直ぐ高速で走るドイツ車のイメージにピッタリです。
また、水平方向に視覚が遮られるため、ボディをより低く薄く見せる効果もあります。
③:おそらく90年代後半のBMW辺りから始まったと思いますが、単なる速さではなく、良好な運動性、加速性を表現するために、パネルライン前部を少し下げて、地面を切り裂くようなイメージを表現しています。こちらのラインは、後にメルセデスベンツも採用し、従来の端正なスタイルとは違い、より躍動感溢れる新生メルセデスベンツのイメージになりました。
④:2000年代に入り、自動車のスタイルにも「ネオ・クラシック」的な流れが起き始めます。ボディーのホイールアーチは、90年代中盤まで、自動車のスタイルからむしろ隠す方向が主流でしたが、AUDIのコンセプトカー、アヴス・クワトロや、後の市販車TT、並びにフォード・フォーカスなどが、逆にホイールアーチを強調するスタイルを取り入れ始めます。
当初は4輪駆動の高性能ぶりを強調する為のパネルラインでしたが、このラインは4駆以外でも流行します。タイヤの存在を視覚的に見せつけるため、アグレッシブな印象になるのと共に、ラインの位置を工夫することにより、ボディーを低く見せる効果もあるのです。今でも大・中型のミニバンなどで多用されています。
⑤:こちらは日本人のカーマニアにはお馴染みの「サーフィンライン」です。C10型スカイラインのトレードマークでもあり、以降数世代にわたりスカイラインのシンボルとなったパネルラインでした。
後輪付近が強調されるデザインですが、当時の自動車は殆どが後輪駆動車であり、その付近に躍動感があるラインが入ることで、見る人に高性能を予感させます。
このサーフィンラインですが、上記のような基本的スタイルは最近見かけなくなりましたが、複数のより有機的なラインを組み合わせ、自動車のキャラクターイメージを印象づける為に、今でも多用されています。
⑥:記憶違いかもしれませんが、日本のマツダが採用し始めた、前輪付近からの力を感じさせるパネルラインです。最近の自動車はFF、前輪駆動車が殆どになりましたので、その前輪のパワーを表現したデザインと言えるかもしれません。上記③のパネルラインよりも、よりフロントの駆動輪に視線が集中する効果をもたらします。
といった感じで、全く同じ外見ながら、パネルライン1本(あるいは2本)で、各車随分とイメージが変わることがおわかり頂けると思います。
実際は、上記のパターンに含めて、フロントバンパーやサイドスカートなどを用いてより複雑なラインを演出しているクルマも沢山ありますが、基本パターンは上記5パターンに分類できるのではないかと。
また、このラインを分析すると、その自動車がメーカーにとってどんなキャラクターとして見られたいか、どんな人達に買ってもらいたいかが見えてきて、なかなか面白いモノです。