フェアレディZ開発の記録/植村 齊
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フェアレディZといえば、マツダのロードスターと並び、日本車の中ではとても成功したスポーツカーです。
1970年代に米国で販売が始まると、その価格の安さと高性能ぶりから、たちまち大ヒットとなり、当時安価なスポーツカーと言えばMGやトライアンフが主流だった中、中規模なスポーツカーメーカーを軒並み蹴散らし米国撤退に追い込んでしまった、日本車にとってある意味伝説の自動車だったりします。MGユーザーの自分としてはちょっと複雑な思いではありますけど(笑)。
そのフェアレディZに関する歴史ですが、米国で初めて大成功を収めた日の丸スポーツカーとして、様々な伝説が語られているようです。特にフェアレディZの生みの親とされているミスターKこと片山 豊氏にまつわるエピソードについては、ドラマチックに語られる事が多いみたい。
本書はそんな「片山氏一辺倒」であるフェアレディZ誕生神話に、若干の冷や水を浴びせるような内容。著者の植村 齊氏は現在書道家として有名らしいですが、実は昔日産車体に勤めていて、フェアレディZのボディ開発にあたった1人でもあります。
その彼が本書で書いていることを一言でまとめますと「フェアレディZは売れる車として企画された商品」だということ。つまりZ誕生秘話で良く語られる「1人の技術者の情熱が生み出した」というストーリーではなく、ちゃんとマーケティングを行って、ユーザーのニーズをくみ取って、当然ながら会社として何度も修正や承認を得て誕生した車だだそうです。ま、当たり前と言えば当たり前なんだけどね。
そのため、プロジェクトXで紹介されたフェアレディZ誕生秘話は、そのほとんどが大げさに語られた演出だとのことで、植村氏に当時NHKから取材があったときも、ストーリーありきの取材姿勢に少なからず違和感を感じていたそうです。
しかし、当時は会社としてそのストーリーに対して文句を付けようという風潮ではなかったので、それはそれでアリかと思って、当時は番組取材班に対してあまり意見しなかったらしく、ただ後年、それらのエピソードを全て否定しないにしても、Zの開発現場にいた人間として、本当の事は書き残しておこうと思って書いたのが本書だとのこと。
1人の情熱が会社を動かして革新的なスポーツカーを誕生させた!確かにスポーツカーを売るためのエピソードとしてはこちらの方が世間に対してウケはいいと思いますが、当然新規の自動車を一台制作するのは、大メーカーだとしても大変ですからね。社員個人の好き嫌いで新型車が簡単に出来る筈はない訳です。
Zの製造にあたっても、如何に既存の自動車からパーツを流用するか。またその調達コストを如何に抑えるか。その中でバランスの良いスタイリングや、スポーツカーとしての性能をどう両立するかなど、割と生臭い話も書いてあります。
ちなみに、後出しジャンケンみたいで恥ずかしいのですが、私がNHKのフェアレディZの回を見たとき、あまり共感できなかったというか、コレ本当なのかな?と少し思っていました。
何故ならこのプロジェクトXのエピソードは、1980年代後半に出版された、デビット・ハルバースタム氏による「覇者の驕り」のエピソードまんまだったからです。なので、内容の信憑性というより、当時NHKが作成していたNスペ「自動車」の焼き直しだね…って感じで。もちろん、その当時に本当のフェアレディZ開発現場がこうまで違うという話があるとは思ってもいませんでしたけど。
ということで、ミスターKの伝説もある意味フェアレディZが作った伝説の一部であり、片山 豊氏の功績を否定するものではありませんが、それらを全て含めたストーリを作った技術者の後日談として、なかなか興味深く読むことが出来ました。あと個人的には、MGFがちょっと紹介されているのも嬉しかった(笑)。
クルマ好きの方は、是非呼んでみて下さい。
それと、プロジェクトXのタネ本である「覇者の驕り」も、私は確か中学生か高校生の頃に読んだ本なので、今となっては内容が古いと思いますが、当時はとても面白かったです。現在は絶版みたいですけど(英語ならKindleで買える)、また読み返したいな。